Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

     “夏と秋の端境で”
 


この夏もまた、
金髪の神祇官補佐殿が何度か
殺す気かと天に向かって本気で吠えたほど、
途轍もない酷暑の夏だったのだが、
それが一転、本降りだった雨からこっち、
急に涼しい空気を孕んで落ち着いたものだから、

 「…一体どういう料簡なんだろうな。空模様の野郎はよ。」

この俺様の雄叫びに恐れをなしたぞと、
天候まで牛耳る我が威勢とふんぞり返ったほうがいっそ素直で微笑ましいかも。
こちらの術師殿の場合、そうまで単細胞ではないらしく、
あばら家屋敷の庭向きの広間の濡れ縁から顔を出し、
そう簡単には丸め込まれやしないからと言わんばかり、
疑心を抱いたまま空を睨んでいたりして。
そんな発想もまた いっそ可愛らしいものか、いやいややはり大人げないのか、
それとも本気で天帝様へ喧嘩を売りたいのか…と来て、

 「三番目じゃないかと思う僕も、どこかおかしいのでしょうか。」
 「いやまあ お前さんも陰陽師だしの。」

そんなに涙目になってこちらの胸ぐらを掴み締めつつ訊くなんて、
そういう判断をする自分なのが よほどにおっかないのかなぁと。
こっちはこっちで書生くんのうろたえようにそんな心配をしてしまう、
ずんと人のいいトカゲの総帥、葉柱さんなのはこれまた置くとして。(笑)

 「知行地で嵐が暴れまわって困っとるわけでもないのだろう?」
 「まぁな。」

所領として授かり、そこからの収穫なり収入なりを報酬とせよとされている、
やや遠隔地の知行地の様子は、
文を取り交わすなぞ面倒だとばかり、
彼なればこその咒術、
紙で作った“式神”の鳥を飛ばして観察させるという手段にて確認済みだ。
遠まわしながら、まあ落ち着けという声を掛けられ、
そんな葉柱の大きな背中の陰から、
やはり“お師匠様、落ち着いて”と言いたげなお顔の書生くんに見つめられては、
さすがに冷静にならざるを得ないというもの。
それでも忌々しげだという意志の主張はしたかったものか、
ふんと強い鼻息をついてから、
ようやっと広間の方へと引っ込んで下さって。

 「今日は出仕の日ではないのか?」
 「ああ。」

暦が秋のそれへと変わった途端に降りだした冷たい雨は、
時に会話を遮られるほど雨脚の強い降りようが数日続いたため、
当初こそ、天帝様がご機嫌を傾けておわすらしいとかどうとか風流ぶって口にしていた顔ぶれも、
しまいには天変地異の前触れやもしれぬとの疑心暗鬼に取りつかれ。
何が起きているものか、口外はせぬから私にだけは教えてたもと、
蛭魔への揶揄を飛び越しての神祇官様ご本人へ、
ともすりゃ真剣本気で詰め寄るありさま。

 「相手は自然のものだ、
  そうそう“例年通”りが通るものでもないというにな。」

むしろ、そういう突発的な規格外事態になった折に困らぬよう
周囲や下々への目配りをし、泰然と構えておらぬかと、
お空どころか蛭魔自身がちょっぴり不機嫌な様子だったのは、

 “…はは〜ん。”

日頃は辣腕な蛭魔への厭味を並べるばかり、
大して信心もしてないわ、知識も蓄積もない身だわ、
ただただ厚顔なだけの身な 下世話な筋の貴族の顔ぶれが。
そんな自分たちの後ろ盾にしたり、
蛭魔への対抗馬のようにして担ぎ出したりしている神祇官様、
武者小路の老師様のことを、
こんな時だけ頼りにし、しかも困らせているのが歯がゆくて。
イライラと落着けないでいるらしく。

 “どこまで自覚しておるかは知らぬがな。”

そういえば、あの老師様も、今帝と同様、
ようよう気の付く補佐殿なことを逆手にとって、
ちゃっかりと顎で使っている態ではあるけれど。
(そして蛭魔自身から大タヌキ呼ばわりをされてもいるけれど。)
そんな飄々とした様子を装いながら
その実、頼もしいことよと思うからこそ何もかにも任せているのだろうし。
古参の分からず屋たちへも、
意見は一応聞くが 聞き入れての動きまではしないという形、
やはり飄々とあしらうことで何処にも角が立たぬ恰好に収め、
蛭魔への風当たりが威勢を得ぬよう煽らぬようにと
宮中の空気を巧妙に誘導しているのだとも解釈できて。

 “気づいておればおったで、
  鬱陶しいとかどうとか吠えかねぬがの。”

だったらどうして、
身勝手な貴族らにまとわりつかれておいでな様子を
こうまでイライラと歯がゆく思う彼なのか。
そこのところへくつくつ苦笑が止まらぬを、
どう隠そうかと困っておいでの葉柱なのへ、

 「? おととしゃま?」
 「どしたの?」

お膝にまといつく子ぎつね坊やが二人がかりで小首を傾げた
秋の雨降る午後でした。




     〜Fine〜  15.09.09.


 *今回、ご本人たちは出て来ておりませんが、
  今帝様も神祇官様も時々出したくなるおじさま好きのもーりんですvv
  古顔の根性曲がりまくった貴族のおっさんたちも、
  妖異の脅威にもたじろがぬ、
  何処へ向かっても怖いもの知らずな補佐殿が、
  だってのに可愛くてしょうがないお二人なのだろうなとか思う
  困ったおばさんです、はい。(笑)

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